そろそろお盆に入りますが、まだまだ蒸し暑い九州の夏。この時期にオススメしたい食事が『冷や汁』です。江戸時代の頃より伝わってきた宮崎の夏の風物詩で、温めたダシの中に味噌を溶く味噌汁と違い、冷や汁は焼いた味噌を冷たい水やダシでのばす料理なんです。素朴だけど奥が深い。そんな冷や汁の名店へ出かけてきました!
※記事は2022年8月12日時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります。
表記の金額はすべて税込価格となります。
昼夜問わず注文できる『御定食』(写真は『みやざき地頭鶏炭火焼定食(2500円)』)。落花生の産地である高鍋町でつくられた「落花生豆腐」(左上)は、風味が良く上品な味わい
「最近はご年配の方よりも、冷や汁を新鮮だと感じる若い方のご注文が多い気がします」と話すのは「杉の子」の女将の前田さん。宮崎の家庭料理だった冷や汁を世に広めたのがこの店の創業者だ。麦味噌を使ったこちらの店の冷や汁は、飲むと軽やかで甘く、少し酸味があり、その後を追いかけるように香ばしいごまの味がする。「汁は全部かけてかきこむのがおいしいですよ」と教えていただいたので、汁と具をすべて麦飯にかけ、お茶漬けのようにサラサラといただく。
かつてJR九州の「ななつ星」でも提供していた「杉の子」の冷や汁。「地元の人が旬の時期しか食べないものを提供することにこそ、贅沢さがあると考えました」と前田さん。冷や汁には西都市の味噌を使っている
具はキュウリ、豆腐、ミョウガで、トッピングにはカマスの一夜干しを焼いてほぐした身。最初はシンプル過ぎるかと思ったが、食べ始めるとベストな組み合わせだと分かった。丸みのある麦飯とのバランスが良く、ほぐし身が良いアクセントになっている。地頭鶏やお漬物も気になるのに、もっともっと食べたい欲求が生まれるほど、箸をどのタイミングで止めようか何度もためらってしまった。味のベースである味噌は、潰したイリコとゴマを混ぜて焼いた焼き味噌で、
宮崎の“ふるさと料理”をいただける杉の子だが、9月になると宮崎では青島での伊勢海老漁が解禁となり、伊勢海老の会席コースが店のメニューに並ぶ。日程についてはホームページまたは電話で要問合せ
イリコは頭と腹を外して乾煎りにし、大量につくるときもあえて手ですり潰すことでふわぁとやさしい味となるそうだ。できあがった焼き味噌はカツオ節と昆布でとった冷たいダシでのばし、裏ごしをしていく。見た目は素朴な料理なのに、なんて手がかかっているのだろう。炭火の香り豊かな地頭鶏は、コリコリしつつも柔らかくて歯切れが良く、やや甘めな味付けで心がホッとする。〆の日向夏のシャーベットも絶品で、夏の暑さで火照った身体をクールダウンさせてくれた。
訪れたのは、
0985-22-5798
宮崎市橘通西2-1-4
11:30〜13:30(お昼は完全予約制)、17:00〜22:00
不定休
https://www.miyazaki-suginoko.net/
アクセス_宮崎交通バス「橘通り1丁目」下車、徒歩約2分
少し見えづらいが、ミョウガの後ろにチラッと見えるのがキュウリのかつらむき。見た目の美しさだけでなく、包丁の入れ方1つで味と食感がこんなに変わるんだ! と感激
野菜ソムリエが腕を振るう和食店が宮崎の繁華街にあると知って、この日を楽しみにしていた。しかも店主は、農家の息子!これは野菜がおいしい店に違いない。旬の旨味がギュッと詰まった夏野菜はどう調理されるのだろうと期待で胸が膨らんだ。夏に食べたい宮崎の名物といえば『冷汁(880円 ※約2人前)』。店主の市川さんは「奇をてらわない王道な冷や汁です」と言うが、かつらむきされたキュウリの手の込み具合に驚いた。汁の色は、赤みを帯びている。
寿司屋や割烹で修業し、和食の基礎を徹底的に学んだ市川さんは20代で独立。まだ30代前半という若さだが、生産者の想いや労力を大切にしたいと日々料理と向き合っている
「赤味噌ですか?」と尋ねると、修業先である飛騨高山のたまり味噌だと教えてくれた。麹の甘みと旨味が強く、それでいて米のまろやかさを感じる。宮崎の冷や汁は焼いた味噌を使うのが一般的だが、それだとたまり味噌の風味が飛んでしまうため、「和季」ではあえて焼かない。焼いた青モノの魚をすり身にし、味噌とゴマ、ピーナツを合わせ、和食の命であるダシでのばしていく。お吸い物や味噌汁を飲むようにダシを飲み、麦飯にかけてごはんとともにダシを食べる。
『季じょん山豚味噌のヤサイスティック(800円)』。この豚味噌は3種類のサイズの肉が入っていて食感が良く、肉味噌単体で食べてもおいしい!
そのダシを使った自慢の一品が『季じょん山豚味噌のヤサイスティック』だ。市川さんは両親が育てた野菜も含め、食材や食品はすべて和をベースにした技術で料理として昇華させることをコンセプトにしており、野菜スティックもダシで炊くなど、ひと手間をかけている。野菜は甘みの強い豚味噌にディップしてもおいしかったけど(肉の食感がコリッ、コリッとしてサイコー♥)、何もつけずに食べてもダシが染みていて大満足! 料理の味をのばす純米酒も揃えている。
訪れたのは、
0985-20-0213
宮崎市中央通り1-10 第一ビル1F
18:00〜翌3:00
月曜休
https://bishusakanawaki.owst.jp/
アクセス_宮崎交通バス「橘通り3丁目」下車、徒歩約3分
店の窓から見える景色も風光明媚だが(写真上)、
「南風茶屋」から車で3分ほどの距離にある堀切峠からの眺めもオススメ。
「取材後に店主の荒木さんに連れて行ってもらいましたが、絶景でした!」(筆者談)
青島を日南海岸沿いに南下していくと、宮崎の郷土料理をいただけるうどん屋さんがある。取材の日は大雨の直後だったため、あいにく海の色が濁っていたが、晴れた日はブルーの海と“鬼の洗濯板”を見ながら食事ができると評判の店だ。「南風茶屋」には、7月〜11月ぐらいまで提供している『冷や汁うどん(940円)』がある。ネギと大葉、錦糸卵がのった彩り鮮やかな一品で、うどんを完食後にごはんを投入すれば二度おいしいと常連さんに人気のメニューだという。
噛んだ時にジュワッと広がる肉汁とタルタルソースの甘味、そしてほどよい酸味…! チキン南蛮はオープン当初からの人気メニュー
うどん屋さんだし『冷や汁うどん』にしようか迷ったけど、ここはやはり初志貫徹。『冷や汁セット(1100円)』を注文した。注文後に知ったのだが、冷や汁セットには冷や汁に負けないぐらいボリュームのあるチキン南蛮が付いてくる! どちらが主役かわからなくなりそうな存在感に驚いていると、単品のチキン南蛮はこの倍の量だと教えていただき、これはサイドメニューなのだと妙に納得。ちなみに『冷汁定食』を選ぶと、これらの料理にミニうどんが加わる。
荒木さんのおばあちゃんのレシピをもとにつくっている冷や汁。「南風茶屋」では一年中注文することができる
鼻孔をくすぐる爽やかな大葉と冷や汁の味噌の香り。汁に含まれた塩気と薬味の絶妙なバランス。もうひと口、あとひと口とかきこんでしまう。この味は、様々な産地の味噌を取り寄せて研究した料理長が大分の白味噌を使い、頭と腹ワタを外してすり潰したイリコと混ぜ、焼いた焼き味噌をうどん用の白ダシでのばしてつくっているという。冷や汁をかけたぶっかけ飯と、チキン南蛮&白ごはん。交互にいただきながら、あれもこれも食べたい欲張りな心は満たされていく。
訪れたのは、
0985-67-1290
宮崎市内海3510-1
11:00〜O.S.15:30
火曜と水曜休み
https://tabelog.com/miyazaki/A4501/A450101/45001656/
アクセス_「JR内海」から徒歩10分、宮崎交通バス「内海駅前」から徒歩5分