大分ではから揚げと同じぐらい日常的に食べられている『とり天』。一説によると昭和初期に誕生したと言われていて、現在ではファミレスや和食店、中華料理店、うどん店など様々なジャンルの店で提供されるほど大分の食文化に浸透しています。今月は店ごとに味わいが異なる『とり天』にフォーカス! 大分と別府で取材をしました。
※記事は2022年4月8日時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります。
表記の金額はすべて税込価格となります。
「1口大のとり天が10コ、1コはおまけ。全部で11コ!」という「美味なかよし」のとり天。テイクアウト希望の人は11時〜11時半の間に電話予約すればOK!
3月中旬、店の扉を開けようとしたら1枚の貼り紙に気づいた。「お知らせ―― 母がまた骨折をしました。しばらくの間、休業させていただきます」。おそらく娘の美香さんの字であろう。ユーモアあふれる愛情にクスッと笑ってしまった。ただ実際に閉めたのは1月だけで、“お母さん”の体調が良くなった今は営業を再開している。実は5年前もお母さんが骨折をして店を休んだが、その時は地元の記者が休業理由を記事に取り上げたほど、みんなに愛されている店なのだ。
お母さんのやさしい人柄と美香さんの朗らかな声に、気持ちが明るくなる人も多いはず。取材中、「別府に行ってきたよ〜」と地元の人から地獄蒸しの卵の差し入れをもらっていた(筆者もその卵をごちそうになりました。ありがとうございます!)
「美味なかよし」の味は、今年7月に82歳を迎えるお母さんの味だ。年齢もあって今では平日のお昼のみの営業だが、それでも行列は絶えない。メニューは『鳥天定食』と『日替わり定食』『なかよしセット』の3つ。ただ、『なかよしセット』はとり天と日替わりを組み合わせたものなので、実質メニューは2つだ。「日替わりは滅多に注文が入らないんです。ほとんどの人がとり天なんですよ」と美香さん。とり天はサクふわな衣がほんのり甘く、とろける食感だ。
『鳥天定食(800円)』。オーダーストップは設けてないが、13時半ごろには売り切れることが多いので、早めに出かけよう
モモ肉の程良い弾力とやや強めな醤油のピリ辛タレが食欲を増進させる。ごはんの上にワンバウンドすれば、食欲がますます進む! ちなみに『ごはん大盛り』を注文したらマンガのようなてんこ盛りの量で出てくるそうなので、ごはんをいっぱい食べたい人はぜひ! また「美味なかよし」の味を支えるお母さんのお味噌汁も、特筆すべき一品だ。カツオとコンブで丁寧に出汁をとったやさしい味わいで、メニューに書かれてないがプラス100円でお替わりもできる。
訪れたのは、
097-534-2234
大分市東春日町10-1
11:30〜13:30(※現在は時短営業中だが、お母さんの体調が完全に良くなれば14:00まで営業する予定)
土日祝休
https://tabelog.com/oita/A4401/A440101/44003656/
アクセス_「JR大分駅」から徒歩約17分、大分県立美術館「OPAM」から徒歩約2分
オススメの豊後牛ステーキは、鉄板のお皿で提供する昔ながらの方法とオープンキッチンのカウンターにある鉄板で焼く方法と2通りから選べる
「これは創業時、昭和28年のメニュー表なんだけど、当時はとり天のことを『チャチーペン』と呼んでいたみたい」とオーナーシェフ・山本さんは教えてくれた。戦後、初代のシェフが別府で洋食レストランを開き、以来69年にわたり親しまれている「グリルみつば」。そんなみつばでは、『とり天』は中華料理にカテゴライズされている。みつばでは洋食のシェフとは別に、中国料理の修業を積んだ専門のシェフも抱えており、昔ながらのやさしい味わいの中華も好評だ。
ランチ時も注文できる『ほろ酔いセット』はアルコール1杯とハーフ料理1つで1200円または1350円(アルコールの種類によって料金が異なる)。ちなみに写真の『とり天』もハーフサイズだが、単品料理と勘違いするほどボリューム満点!
大分のとり天はポン酢や酢醤油に練り辛子を溶かして食べるのが王道だが、みつばの『とり天』はちょっと違う。洋食や中華をやや感じさせるフリッターのような衣はふわっふわで、鶏の滑らかな食感に自家製の甘いタレがアクセントとなって、ビールとの相性が最高!「せっかく別府に来るなら、とり天食べてビールを飲んで、ほろ酔い気分でぶらぶら散策するのも楽しいよね!」と山本さん。もしくは『とり天』を前菜に、洋食をメインに選ぶのもツウな食べ方かもしれない。
『ビーフカツ(2050円)』の味を支える繊細な衣は、別府で有名な「友永パン」の食パンを使用。一斤丸ごと仕入れて乾燥させ、自分たちでパン粉にしている
洋食屋さんならではの創業時からある料理が食べたくて『ビーフカツ』を選んだ。最近では「牛かつ」と言う方が馴染みかもしれない。大きくて厚みのある肉は、頬張るととろけるように柔らかい。口の中ですぐにほどける生パン粉、牛と香味野菜を長時間煮込んだデミグラスが肉と一体となって、満足のボルテージがグンと上がる。とり天も含め、創業から味が継承されているということは、それだけ支持されてきたということ。みつばに行けば、別府の食文化も体験できる。
訪れたのは、
0977-23-2887
別府市北浜1-4-31
11:30〜O.S.13:30、18:00〜O.S.20:00
月曜のディナー&火曜は終日休み
https://www.mituba.info
アクセス_「JR別府駅」から徒歩10分
「他の料理をセットで注文して単品のとり天をシェアする人が多いんです」と丸山さん。『とり天セット』750円(料理単品の場合は100円引き)
最後にご紹介する「キッチン丸山」も地元の有名店だ。注文した料理を待っていると、年配の男性が席に着くなり「とり天セット、1つ」と慣れた調子でオーダーをしていた。後から知ったのだが、その男性は親子4代で通っている常連の一人で、中学生の頃から“とり天一筋”なのだそう。ひと口大の『とり天』を頬張ると、衣は口当たりがソフトでから揚げのような味がした。酢醤油が入った別皿に和辛子を入れて再び頬張ると、肉の旨みがじんわりと広がっていく。
ランチ営業のみの「キッチン丸山」。並ばずにスムーズに席に着きたいなら、電話予約後に来店するのがオススメ
味の秘訣は7〜8種類のスパイスで、「下味を付けて2〜3時間漬け込み、さらに衣をつけて半日から一晩ほど寝かせてつくっているんです」とのこと。別ダレの酢醤油も気温や湿度に合わせて配合を変えており、わたしたちからは見えづらい丁寧な心配りと手間ひまが前述のような常連の舌をしっかりと掴んでいる。飲食店には料理の数だけその味を支えるお客が存在しているが、この店を薦めてくれた知り合いは『とり天』以外に『ミンチカツ』もイチオシだと言っていた。
『ミンチカツセット』800円。海老フライ、ヒレカツ、ハンバーグがひと皿に盛られた大人のお子さまランチを思わせる夢のメニューもある!
『ミンチカツ』はカツの下にデミグラスソースを、上にはとんかつソースがかかったダブルがけ。ナイフで切るとジュワ〜と出てくる肉汁の旨み、しっとりと柔らかい甘みのある肉、2種類のソースが味にメリハリを利かせている。現在厨房を切り盛りしているのは、若き3代目のシェフ。厨房ではデミグラスのフォンドボーもすべてイチからつくるなど、丸山家が大切にしてきた昔ながらの味を祖父である初代から受け継ぎ、空腹でやって来る人たちのお腹と心を満たしている。
訪れたのは、
097-537-5538
大分市顕徳町1-6-15
11:00〜14:30
日祝休
https://tabelog.com/oita/A4401/A440101/44000565/
アクセス_「JR大分駅」から徒歩約10分