Vol.12 森光牧場 森光 力さん

うだるような蒸し暑い日が続いています。こんな時期は、さっぱりとしたお蕎麦を食べてひと息つきませんか? 今月ご紹介する3軒は、空間もとてもステキなので、大切な人をおもてなししたい時にもオススメなんです。今月は、宗像と筑紫野、天神へ出かけてきました。

※記事は2021年8月13日時点の情報です。内容については、予告なく変更になる可能性があります。
表記の金額はすべて税込価格となります。

庭と歴史的空間を堪能。宗像にある「街道そば たからい」


写真左奥にあるのが実美の書「動墨華詞」。言葉が華やかなら墨が動くという意味で原町の人たちのおもてなしに気持ちが高揚した様子を伝えている

津街道の赤間宿と畦町宿の間に、商家や旅の休憩所が軒を連ね賑わっていた「原町(はるまち)」という場所がある。古き良き日本家屋が残るこのエリアの一画に佇むのが「街道そば たからい」だ。築200年ほどの造り酒屋の一部を改修した店内には大広間があり、西郷隆盛や大河ドラマ「青天を衝け」にも登場している三条実美の書が飾られている。主人が蔵男たちへ初酒を振る舞うためにつくった座敷だと言われているが、当時の栄華を偲ぶこの空間が食事の席だ。


昭和34年までこの地で営んでいた造り酒屋「眞武酒造」。当時の看板商品が日本酒「寶井(たからい)」で、蕎麦屋の屋号はこの名前を用いている

ガラスの向こうに美しい緑が見える。店の主人は「先祖が残してくれた庭を再現したい」と昨年庭師に手入れをしてもらったそうだが、その時に庭が長寿のシンボル・亀をモチーフにしたつくりになっていることを初めて知った。「見立ての手法」という技術の1つで、亀に似た石の配置や、その石を使って庭をデザインするなど凝ったつくりとなっている。ご先祖の愛情と願いが通じたのだろう。江戸時代につくられた家は戦火を免れ、大切な子孫へと大事に受け継がれている。


そばがきの包み揚げ、味ごはん、冷たい蕎麦(3種のつゆ)、抹茶、蕎麦のデザートが付いた『冷蕎麦三昧』は1650円。座敷席の他に椅子席もある

そんな歴史ある空間でのんびりと庭を眺めながら昼食を。暑いこの時期にオススメなのが、3種のつゆが付いた『冷蕎麦三昧』だ。大葉がほんのりと香るゴマダレはさっぱりとしていて、薬味代わりの鶏ささみが食感のアクセントとして際立つ。とろろとスタンダードなつゆと3つの味を交互にいただける贅沢さといったら…。格別だ。肉厚の海老をふわっふわの衣で包んだそばがきの包み揚げは、おかわりしたくなる一品! 食の〆のお抹茶は非日常感をさらに演出してくれる。

「街道そば たからい」

0940-36-0302

福岡県宗像市原町16
11:00〜17:00(夜18:30〜20:00は要予約)
火曜休
https://tabelog.com/fukuoka/A4003/A400302/40009949/
アクセス_JR「東郷駅」から車で約8分、
西鉄バス「光岡」バス停から徒歩約7分

天神・大名にある静寂な空間。「手打ちそば やぶ金」


創業当初は渡辺通沿いに店を構えていたが、ホテルニューオータニ博多の建設に伴い、昭和50年に大名へ移転。その後、現在の場所へと移転してきた

口の扉を開けると、部屋の奥に見える庭がパっと目に飛び込んできた。一瞬で気持ちが華やぎ、これから始まる食事の時間に気持ちが高鳴る。こんな粋なおもてなしでお客を歓待してくれるのは、天神・大名のど真ん中にある「やぶ金」だ。昭和11年に建てられ、現在、国の登録有形文化財に指定。柱、梁、格子、今では珍しい揺らぎのある窓ガラスなど何もかもが美しく、外の喧騒が嘘のような落ち着いた雰囲気もまたいい。天神での買い物途中に立ち寄れる立地も魅力だ。


粗挽き粉を使った蕎麦打ちは、蕎麦打ちの中でも難しい技術と言われている。関東で修業してきた3代目が腕を振るう蕎麦をぜひ堪能してみて!

「夏限定のメニューです」と運ばれてきたのは『とろろそば』だ。器の中で表現された真っ白な雪景色の中に浮かぶ黄身がことさら美しく、涼やかな気持ちになる。この店でいただけるのは、粗挽き粉を使った外一(そといち)蕎麦。蕎麦の風味と食感をしっかり味わうことができるとあって楽しみにしていた。箸でかき混ぜるようにして蕎麦を持ち上げると、粘り強いとろろがしっかりと絡み、シンプルな旨さが口いっぱいに広がる。時折、わさびのツーンとした風味が鼻の奥を刺激した。


「やぶ金」では、福岡県産を中心に九州各地の蕎麦の実を取り寄せてつくっている。『とろろそば』『すだちそば』ともに1400円

夏の涼を楽しめるもう一杯は『すだちそば』だ。輪切りのすだちと蕎麦のビジュアルが印象的で、琥珀色の透き通った冷たいつゆで喉を潤す。粗く削った大根おろしの食感と噛む度に生まれる旨味がつゆと調和し、すだちの程よい酸味と爽やかな香りに心が癒され、暑さでほてった身体をクールダウンさせてくれる。この2品は暑さがやわらぐまで提供するというが、終了する頃には待ちに待った秋の新蕎麦が登場する。今年はどんな香りの蕎麦と出逢えるか、今から楽しみだ。

「手打ちそば やぶ金」

092-761-0207

福岡県福岡市中央区大名2-1-16
11:30〜O.S.14:30、17:00〜売切れ次第終了
火曜の夜と水曜休
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400104/40000050
アクセス_福岡市営地下鉄「天神駅」から徒歩約7分、
「赤坂駅」から徒歩約4分

十割蕎麦の概念が変わる!?「十割蕎麦 かぜのたみ」


写真は『彩(あや)振舞い(1700円)』に付いている前菜7種盛り。ジュレの酢の物やニンジンのきんぴらなど、1つひとつに手が込んでいる

までの印象が180度変わった。かつてこんなにおいしい十割蕎麦に出逢ったことがない。ぼそぼそとした食感が得意ではなく、蕎麦は大好きだけど十割だけは昔から苦手だった。「十割なのに、どうしてこんなにおいしいんですか?」。自分でもヘンテコな質問だと思ったが、上手く言葉が出てこないほど目の前で起きている予想外の状況に感激し、まさかの体験ができたことに驚いていた。「蕎麦は製粉の仕方によって変わるんです」と店主の長友さんは笑顔で応えてくれた。


セットの蕎麦はせいろ、おろし、とろろ、きじ、温そばの中から選択。蕎麦の種類によってつゆに使う醤油の産地も変えている

長友さんによると、蕎麦づくりは「2割が技術、7割が原料、そして1割が製粉」なのだそうだ。長友さんが打つ蕎麦は1.7mmと通常よりやや細く、ツルツルしているので喉越しが良い。十割蕎麦に対して多くの人が持っている、太くて黒くてぼそぼそというイメージを払拭したいと、フットワークの軽い長友さんは弟子の育成の他に、店や福岡県広域、日田での蕎麦打ち教室やお取り寄せして食べてほしい乾麺づくりの研究など、蕎麦が持つ可能性を日々追及している。


現在3部制で営業しているため、できれば予約して来店するのがオススメ。長友さんから1対1で学べる手打ちそば教室は3000円〜(要事前予約)

今回いただいたのはセットの「彩振舞い」だが、蕎麦はもちろん、最後のデザートもお饅頭の天ぷら以外はすべて蕎麦が入っている蕎麦尽くしなことに驚いた。バニラアイスの中には蕎麦の実が混ざっていて、アイスの下には蕎麦湯の寒天。蕎麦粉でつくった白玉は求肥のように柔らかく、そば茶が入った薄いチョコはクランチみたいにサクサクしている。これらの手間暇を想像すると頭が下がる思いがした。次回は「そば振舞い」を注文しようと思い、店を後にした。

「十割蕎麦 かぜのたみ」

092-926-5998

福岡県筑紫野市天山537-1
第1部11:00〜12:20、第2部12:30〜14:00、第3部14:10〜15:30
火曜&第1週目の月曜〜水曜休(祝日の場合は営業)
https://kazenotami.com
アクセス_西鉄電車「朝倉街道駅」から車で約10分、
西鉄バス「天山」バス停から徒歩約5分