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旅のスタートは「田川伊田駅」から。JR日田彦山線と、ことこと列車を運営する平成筑豊鉄道の田川線と伊田線の3路線を抱える駅で、1月にリニューアルしたばかり。ことこと列車は2019年3月に運行を始めて以来、直方駅〜行橋駅を走っているけど、2020年4月〜6月は田川伊田駅〜行橋駅・田川伊田駅を走行する新コースが登場!それにしても、田川伊田駅の駅舎はモダンだなぁ···。
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旅の始まり
プラットホームに着くと、遠くからゆっくりとやって来る列車が見えてきた! その場にいた人たちはカメラやスマホを持って一斉にシャッタータイム。深紅のボディが青空に映えて、カッコイイ。車両のデザインを担当したのは、JR九州の豪華列車「ななつ星」などを手がけた水戸岡 鋭治さん。ちなみに駅名標の下部分に入っているMr.MAXのロゴは駅名の愛称で、ネーミングライツによるもの。
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いざ車内へ
「こんにちは〜」と乗務員さんにあいさつをして意気揚々と乗り込むと、言葉を失ってしまったほど想像以上の美しさに圧倒···!ことこと列車に使われている技術はあの「ななつ星」と同レベルだそうで、「最高の職人たちが技術を駆使し、これまで培ってきた技術を惜しみなく注ぎ込みました」と運行開始時に水戸岡さんがおっしゃったそうだけど、車内はまるで豪華な応接間や美術館のよう。鉄道や電車の世界では国内初と言われる天井全面に配したステンドグラスは、水戸岡さんにとっても初チャレンジの作品。天井の色を引き締める黒のアイアンのデザインは1つひとつ違って、見ていて面白い。車両全体で2万2000ピース使ったという床の寄せ木細工は所々デザインを変えていて、単調ではない空間づくりをすることで滞在する人たちをおもてなししたいという職人たちの心意気が伝わってくるよう。なにより目を惹いたのは、衝立(ついたて)や窓枠に使用されている福岡県大川市の工芸品・大川組子。車窓から差し込む光や影によって空間の表情を変えるこの組子は、水戸岡さんがデザインをして職人さんが釘を使わず1つずつ手作業でつくりあげたもの。華奢で繊細な美しさに一瞬で心が奪われてしまった···!
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沿線の味をフレンチで
さて、列車が動き出すとお待ちかねのお食事タイム。2020年4月からフレンチのコース全6品がグレードアップするそうで、監修したのは「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版」で1つ星を獲得した福岡市にあるフレンチレストラン「ラ メゾンドゥ ラ ナチュール ゴウ」のシェフ・福山さん。沿線である筑豊と京築(けいちく)の素材をふんだんに使った料理を堪能できる。
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お弁当箱に入った前菜は9つの市町村の素材が入っていて、ホルモン鍋のコロッケや田川のイノシシを使ったハンバーグなどキャッチーな料理に期待が膨らむ。「焼き印が付いているのは、直方の銘菓『成金饅頭』に見せかけたベーグルサンドなんです」とスタッフさん。筑豊はかつて石炭で栄えたエリアで、石炭とボタ山に見立てた「石炭リゾット 鮑のソテー添え 椎茸と焦がしバターのソース 〜筑豊の誇り〜」や「和牛頬肉のパピオット 上野焼を感じながら〜」など、ひと皿ごとにストーリーを料理で表現。椎茸と焦がしバターのソースは厚みのある鮑とピューレ状にした糸田町産のしいたけを楽しめる料理で、バターの風味と味わいが良く、温かな和牛の頬肉は口の中でホロホロと溶けていく。和牛が盛られた美しいブルーのお皿は上野(あがの)焼と言い、田川で400年以上の歴史を持つ伝統工芸のこと。ことこと列車では、親子3代にわたって営む庚申(こうしん)窯の器を使用している。車窓を見ながら食事を楽しんで、ある駅では地元のモノが並んだマルシェでお買い物をしたり、ある駅では明治時代につくられたといわれる古い駅舎を見て時代を感じたり。忙しない日常から離れた列車の旅は、ゆっくり走ることこと列車の速度のように心を穏やかにしてくれる。
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心の中にこんな風景がある
「車両の先頭に移動しませんか?」と乗り合わせた人に声をかけられた。窓の向こうに見える今川の水面が日差しを浴びてキラキラしている。移動すると、明治28年につくられた九州で一番古い鉄道トンネルである第二石坂トンネルが見えてきた。初めて見る景色なのに、昔見たことがあるような懐かしさを感じるのはなぜだろう。子どもの頃の夏休みのような、みずみずしくてちょっぴり切ない気分になった。車内で流れる音楽や、ガラス越しに見える風景がセンチメンタルにさせるのだろうか。第二石坂トンネルを抜けると「いつもここを通る度に呑みたい気分になります」と車内放送が流れてきた。左側を見ると「九州菊(くすぎく)」と大きく書かれた建物が見える。江戸時代から続く林龍平酒造だ。のどかな風景の中で繰り広げられるコミュニケーションに、心がさらに和む。ことこと列車は選べるドリンクの種類も豊富で、日本酒「九州菊」を始め、地元・福智町のあまおうを使ったアルコール入りのソーダ、ビールやレモンジンジャーなどドリンクも地元ならではのものを用意。地元の食、地元の飲み物、地元民である運転士さんのアナウンスと、地元愛の詰まったことこと列車。車窓から見える風景は地元の人たちにとってはなんでもない日常かもしれないけど、そこには古き良き九州の田舎の景色が広がっている。しかも、美しく装飾された席から見る風景といったら···! なんて贅沢な時間なんだろうとため息が出てしまう。春は桜と菜の花、夏はホタル、秋は紅葉と四季折々の風景を楽しませてくれることこと列車。ローカル線の旅がこんなにステキなのは、沿線で暮らす人たちが自分たちの土地や暮らしを大切に大切に守っているから。2両編成の小さな列車は、やさしい音を響かせて走っていく。
おでかけしたのは、
平成筑豊鉄道のレストラン列車
「ことこと列車」
1日1本、土日祝日のみ運行(4月〜6月は田川伊田駅発、7月〜9月は直方駅発)
料金_1万7800円(食事代含。6歳未満のみ無料、ただし席を利用する場合は1人分となる)
申込方法_Webまたは電話にて。
https://www.heichiku.net/cotocoto_train/
092-751-2102(JTB九州MICEセンター 9:30〜17:30、土日祝休み)